はじめに:その「大丈夫」、本当ですか?
「最近どう?」「大丈夫だよ」
「何かあった?」「ううん、大丈夫」
私たちの日常には、「大丈夫」という言葉が溢れています。
相手を気遣う優しさの表れであったり、その場の空気を和ませるための便利な言葉であったりもします。
しかし、心の奥底では悲鳴を上げているのに、まるで口癖のように「大丈夫」と自分に言い聞かせてしまうことはありませんか。
この記事では、「大丈夫」という一言の裏に隠された、私たちの心の働きについて、少しだけ深く考えてみたいと思います。
その言葉は、時として自分を守るための仮面となり、知らず知らずのうちに、本当の自分から遠ざかってしまうきっかけになっているのかもしれません。
1. 「大丈夫」という、優しくて少し寂しい仮面
私たちはなぜ、心が「大丈夫じゃない」時にも、「大丈夫」と答えてしまうのでしょうか。
その背景には、「大丈夫でなければならない」「普通でなければならない」という、無意識の思い込みがあるのかもしれません。
自分の弱さや「大丈夫ではない」部分を他人に知られることへの恐れが、私たちに「大丈夫」という仮面を被らせるのです。
この言葉は、自分の複雑な内面を説明する手間を省き、他人が心に踏み込んでくるのを防ぐための、便利な壁として機能します。
しかし、その壁を使い続けるうちに、壁はどんどん厚くなり、やて自分自身でさえ、自分の本当の気持ちが見えなくなってしまうことがあります。
それは、自分の心に対して少し無頓着になってしまっているサインなのかもしれません。
2. 心が「大丈夫」でなくなる時
「大丈夫」という仮面をつけ続けることには、大きな代償が伴います。
自分の心に正直でないことは、たとえ自覚がなくても、少しずつ痛みを伴いながら内側に蓄積されていきます。
本当は大丈夫ではないことを、自分自身の心はちゃんと知っているからです。
行き場を失った感情は、やて心の限界を超え、自分一人では抱えきれないほどの重荷となります。
そして、自分の力で内面を整理できなくなった時、私たちは心のバランスを取るために、アルコールなどの「外部の何か」に頼らざるを得ない状況に陥ることがあります。
アルコールは、普段は固く閉ざしている心の扉を、一時的にこじ開けてくれるように感じられます。
しかし、それは根本的な解決にはならず、「それがないと心が壊れてしまう」という、より深刻な依存のサイクルへと繋がっていく危険性を孕んでいるのです。
3. 「大丈夫じゃない」と認める勇気
では、この「大丈夫」という言葉の呪縛から自由になるには、どうすればいいのでしょうか。
それは、自分自身と正直に対話することから始まります。
もしあなたが「大丈夫」という言葉を使いすぎていると感じるなら、一度、静かに自分の心に問いかけてみてください。
・なぜ、自分は「大丈夫」と言ってしまうのだろう?
・その時、本当は何を感じているのだろう?
・「大丈夫じゃない」と正直に伝えたら、どうなると思うのだろう?
・なぜ、素直に「大丈夫じゃない」と言えないのだろう?
こうした問いかけは、「自分は本当は弱い部分を守っていたのかもしれない」という大切な気づきを与えてくれます。
自分の弱さを認めることは、決して恥ずかしいことではありません。
むしろ、それこそが自分自身を深く理解し、大切にするための、勇気ある第一歩なのです。
おわりに:あなたの本当の言葉を見つけるために
「大丈夫」と言い続けることで、私たちは無意識のうちに「自分はしっかり者だ」と自己を誤認し、本来の弱さから目を背けてしまいます。
しかし、自助会のような場所では、誰もが「大丈夫じゃない」自分を正直に語ります。
そこは、弱さをさらけ出しても良い、安全で保護された空間です。
もし今、あなたが「大丈夫」という言葉の裏で一人苦しんでいるのなら、どうかその沈黙を破ることを恐れないでください。
あなたの本当の言葉を待っている誰かが、そして対話を通じて開かれる新しい道が、きっとあるはずです。

アルコール依存症当事者です。
2020年7月から断酒しています。
ASK公認依存症予防教育アドバイザー8期生