【自己肯定感を高める#6・最終回】なぜ自己肯定感が依存症予防の最強の「ワクチン」なのか

回復のヒント

第5回より)

私たちは、自分を傷つける「無意識のクセ」に気づくための、優しい自己観察法について学びました。

無理に変えようとするのではなく、まず「気づく」こと。

その繰り返しが、自己肯定感という土壌を静かに耕していきます。

これまで5回にわたって自己肯定感について学んできましたが、なぜこれほどまでに自己肯定感が重要なのでしょうか。

その答えは、依存症が生まれる根本的なメカニズムにあります。

今回は、自己肯定感と依存症の関係を解き明かし、なぜ自己肯定感が最強の「予防ワクチン」となるのかを、論理的に整理していきます。

依存症の本質:「心の空虚感」を埋めようとする行為

なぜ人は依存症になるのか

依存症と聞くと、アルコールや薬物そのものに強力な魅力があるように思われがちです。

しかし、依存症の本質はそこにはありません。

依存症の根源には、「心の空虚感」があります。

これは、自分自身に対する基本的な安心感や価値観が不足している状態です。

この空虚感は、まるで心に空いた穴のように、常に「何かで埋めなければならない」という切迫感を生み出します。

そして依存とは、この心の穴を「自分以外の外部的な何か」で埋めようとする行為に他なりません。

それがアルコールであれ、買い物であれ、仕事であれ、特定の人間関係であれ、メカニズムは同じです。

外部依存がもたらす「支配」の構造

ここで重要なのは、外部のもので心の穴を埋めようとすると、必然的に何が起こるかということです。

自分の心の状態の決定権を、その外部のものに明け渡してしまうのです。

これを具体的に見てみましょう:

  • アルコールが手に入れば安心するが、なければ不安になる
  • 人から褒められれば満たされるが、批判されれば絶望する
  • 仕事がうまくいけば価値があるが、失敗すれば無価値に感じる

つまり、自分の心の天気が、自分以外のものによってコントロールされる状態になってしまいます。

これは、自己肯定とは正反対の状態です。

自分の価値を自分で認めるのではなく、外部の状況や他者の評価に、自分の価値判断を委ねてしまっているからです。

自己肯定感という「内的な安定基盤」

外部依存から内的充足への転換

それに対して、自己肯定感を育てるということは、自分の内側に安定した「価値の基盤」を築くことです。

これは、外部のものに頼らずとも、自分で自分を満たすことができる「内なる泉」を育てるようなものです。

この事実は私の回復において、革命的な発見でした。

「自分の心は、自分のものである。だから、自分にしか本当の意味で理解できず、自分にしか受け入れられず、自分でしか肯定することができない」

なぜ自己肯定感が「予防ワクチン」なのか

この発見が、なぜ自己肯定感が依存症の「予防ワクチン」となるのかを明確に説明します。

ワクチンが病原体に対する免疫を作るように、自己肯定感は「外部依存」という病理に対する免疫システムを構築するのです。

依存症は外部に価値を委譲すること、それにより生じる自己無価値感が原因の1つであります。

それに対し、自己肯定感を上げることは、自律的に自己価値感を得ることで、外部からの切り離しを可能にします。

したがって、自己肯定感を得ることができれば、外部に依存せず、かつ自己価値感も上げることができるわけです。

つまり、自己肯定感が育つことで、そもそも心の穴を外部のもので埋める必要がなくなります。

アルコールや他の嗜好品、人間関係を楽しむことは変わりませんが、それらは「ないと生きていけない」依存の対象ではなく、「あったらもっと豊かになる」人生の彩りに変わるのです。

心の主導権を取り戻すための日常的な実践

この理解を日常生活に活かすために、一つの簡単な習慣をお勧めします。

一日のうち、特に心が揺れ動いた時に、自分にこう問いかけてみてください。

「今、私の心の中心にいるのは『私』だろうか? それとも『他人からの評価』や『何かの成果』だろうか?」

そして、もし中心が自分からズレていることに気づいたら、静かに深呼吸をして、「大丈夫。私の心の持ち主は、私だ」と、自分に思い出させてあげてください。

この小さな習慣が、外部依存から内的自律への道筋を、確実に築いていきます。

まとめ―自己肯定感という「人生の主導権」

自己肯定感が「無条件のOKサイン」であること、それが「条件付きの価値観」や「責める声」によって損なわれること、そしてその声から距離をとり、自分に優しさと気づきを向ける具体的な方法を実践してきました。

そして今回、なぜこれらの学びが依存症という現代社会の深刻な問題に対する根本的な解決策となるのかを、論理的に整理しました。

自己肯定感とは、単なる心理的な概念ではありません。

それは、外部の状況に振り回されることなく、自分らしい人生を歩むための「主導権」そのものです。

この記事が、過去の私と同じように苦しんでいる誰かにとって、本当の意味での自由と安定を手に入れるための一助となることを、心から願っています。

一度手に入れたら終わりのゴールではなく、生涯を通じて続けていく自分自身との丁寧な対話。

それが、自己肯定感を育てるということなのです。

(おわり)

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